「賢者の贈り物」(O.ヘンリー)

一方通行ではない、双方向の夫婦愛

「賢者の贈り物」
(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
 光文社古典新訳文庫

「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」

「賢者の贈りもの」
(O.ヘンリー/小川高義訳)
(「賢者の贈りもの」)新潮文庫

「賢者の贈りもの」新潮文庫

貧しい夫婦が互いに
クリスマスプレゼントを買う金を
工面する。
妻は、夫が大切にしている
金の懐中時計の鎖を買うために
自慢の髪売り、
夫は、妻が欲しがっていた
鼈甲の櫛を買うために
父から譲り受けた懐中時計を
質に入れて…。

私ごときが取り上げるまでもなく、
多くの方がすでに読んで知っている、
O.ヘンリーの名作です。
私は何度読んでも
感動して涙が溢れてしまいます。
筋書きは十分に暗記しているのに、
読むたびに感極まります。
感動のツボを
見事に押さえた作品なのです。

今日のオススメ!

なぜ感動するのか?
それは言うまでもなく、
お互いに相手のことを
考えているからにほかなりません。

本作品は妻目線で書かれています。
妻が髪を切る場面、
姿見の前で妻は涙を落としながら
髪を売る決心をします。
この妻の長く美しい髪は、
妻の自慢だけではないのです。
「若い夫婦には、とっておきの宝として
自慢できるものが二つあった」と
あります。
夫も妻の美しい髪を
愛していたのでしょう。
だとすると、妻の落とした涙は
髪が惜しかったからだけではなく、
夫の愛した髪を
失うことだったと考えられます。

だからこそ、
髪を切ったあとも妻は考えます。
「カール用の鏝を取り出し、
 ガスの火であたためて、
 愛の散財がもたらした
 荒廃の修復作業にとりかかる。」
「頭全体に、
 くるくると小さく巻いたカールが
 へばりついていた」
「神様、これでも可愛い女だと
 思われますように」

何とも健気です。

その妻の気持ちに応えるかのように、
夫も「若い夫婦のとっておきの宝」の
一つである金時計を売り払い、
妻が欲しがっていた
鼈甲の櫛を買うのです。

お互いに、相手にとって
本当に必要なものがわかっている。
そして、そのために自分の
大切なものさえ
投げ出す覚悟を持っている。
ここに涙のツボがあるのです。

日本の夫婦愛の物語は、
どちらかと言えば一方通行のものが
多いのではないかと思います。
それも妻が献身的に振る舞うものが。
でもそれは男の立場で
都合のよい女性を描いたものに
過ぎないのではないかと思うのです。

O.ヘンリーが描いたように、
愛情は互いに思いやる
双方向であってこそのものです。
と、そう書いておいて
自分はちゃんと妻のことを
思いやっているのかどうか、
不安になるこの頃です。
今年のクリスマスは
ちゃんとプレゼントを
買うことにします。

「1ドルの価値/賢者の贈り物」
  収録作品

多忙な株式仲買人のロマンス
献立表の春
犠牲打
赤い族長(レッド・チーフ)の身代金
千ドル
伯爵と婚礼の客
しみったれな恋人
1ドルの価値
臆病な幽霊
甦った改心
十月と六月
幻の混合酒(ブレンド)
楽園の短期滞在客
サボテン
意中の人

心と手
水車のある教会
ミス・マーサのパン
二十年後
最後の一葉
警官と賛美歌
賢者の贈り物

※「賢者の贈りもの」収録作品一覧
賢者の贈りもの
春はアラカルト
ハーグレーヴズの一人二役
二十年後
理想郷の短期滞在客
巡査と讃美歌
水車のある教会
手入れのよいランプ
千ドル
黒鷲の通過
緑のドア
いそがしいブローカーのロマンス
赤い酋長の身代金
伯爵と婚礼の客
この世は相身互い
車を待たせて

(2018.10.25)

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